あがない

(「紙切れに書かれた言葉」より)

あがない


ある所に双子の兄弟がいました。
兄は正しい人でした。人々から愛され信頼されていました。
弟は悪い人でした。人々から憎まれ嫌われていました。
ふたりは姿かたちは全くおなじでしたが、行いは全く違っていました。

兄は多くの人を愛し、助け、働きました。そして、誰よりも弟を愛していました。
弟は悪事をし続け、その罪のために捕えられ、牢獄に入れられました。その罪は重く、とうとう死刑になることになってしまいました。

弟は、牢屋の中から助けを求めました。
「助けてください。助けてください。私をここから出してください。」
兄は弟を心から愛していました。兄は人から信頼されていたので、鉄格子を越えて牢屋の中に入り、直接、弟と話し合う事ができました。
「弟よ、私はあなたを愛しています。私があなたの衣を着てこの牢屋にとどまれば、私があなたではないとは誰も思わないでしょう。さぁ、互いに衣を変えて、私があなたの代わりになりましょう。
ただし、ひとつだけ約束してください。ここから出たら私のようにふるまいなさい。そうすれば、私があなたの代わりになったということは誰にも分からないでしょう。さぁ、ここから出て自由になりなさい。」
次の日、兄は弟の変わりにこの世を去りました。

それから後、弟は兄のように行動し、最後までそれが弟であったと人々には分からなかったということです。

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